元請の支払いが遅い|「1か月・50日・60日」の違いと、請ける前に決めておくこと
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会社にいた頃、社長の機嫌がやけに悪い日がありました。あとから、元請からの入金が遅れていたのだと知りました。「今月ちょっと待って」という話が、社長同士の間で何回かあったようです。
私の給料が遅れたことは、一度もありません。会社が間に入って、吸収していたからです。職人から見えていたのは、機嫌の悪い社長だけでした。独立すると、その遅れがそのまま自分の財布に来ます。
この記事でわかること
- 元請が代金を受け取った日から1か月以内、という支払いのルール
- 相手が特定建設業者のときの「50日以内」の数え方
- 遅れたときに、日付をどう並べて、どこに相談するか

先に結論
- 支払いには、契約で決めた支払日と、法律上の期限があります
- 建設業法に「1か月」と「50日」、条件によってフリーランス法の「60日」があります
- いちばん効くのは、請ける前に支払日を決めて書面に残すことです
先に確認 法律の期限だけでなく、契約書・注文書・請書に書かれた支払日も確認してください。別の話です。
支払いを見る物差しは、4つあります。
| 物差し | 基準になる日 |
|---|---|
| 契約の支払日 | 注文書や請書で約束した支払日 |
| 建設業法の1か月 | 許可を受けた元請が、その上から代金を受け取った日 |
| 建設業法の50日 | 特定建設業者に、引渡しを申し出た日 |
| フリーランス法の60日 | 条件を満たす場合に、発注側が仕事の提供を受けた日 |
※「1か月」の対象は、元請が受け取った額と出来高に応じた分です。「50日」は、下請側が特定建設業者や資本金4,000万円以上の法人なら対象外です。くわしくは、このあとの本文で説明します。
どれか1つを選ぶのではありません。当てはまるものを、それぞれ確認します。
「1か月」の数え方
建設業法の第24条の3に、こう書かれています。
元請負人は、請負代金の出来形部分に対する支払又は工事完成後における支払を受けたときは、当該支払の対象となつた建設工事を施工した下請負人に対して、当該元請負人が支払を受けた金額の出来形に対する割合及び当該下請負人が施工した出来形部分に相応する下請代金を、当該支払を受けた日から一月以内で、かつ、できる限り短い期間内に支払わなければならない。

読みどころが2つあります。
1つ目。起算日は「支払を受けた日」です。工事が終わった日でも、請求書を出した日でもありません。元請が、その上(施主や上位の元請)からお金を受け取った日からの1か月です。
2つ目。対象は「受け取った額と出来高に応じた分」です。元請が一部しか受け取っていないのに、請求額の全部がこの条文だけで期限を迎える、という意味ではありません。
そしてもう1つ。ここでいう「元請負人」は、下請契約で工事を注文する、建設業の許可を受けた業者を指します(建設業法第2条5項)。相手が許可を持っていない場合、この1か月がそのまま当てはまるとは限りません。
元請がその上からいつ受け取ったかは、こちらからは見えないことがあります。分からないまま「1か月を過ぎた」と決めつけず、まず入金の状況と支払予定日を確認してください。
なお同じ条文の2項に、下請代金のうち労務費に相当する部分は現金で支払うよう配慮する、とも書かれています。
「50日」の数え方——相手が特定建設業者のとき
相手が特定建設業者の場合は、別の期限が乗ります。建設業法の第24条の6です。
特定建設業者とは、一般建設業より厳しい条件の「特定建設業」の許可を受けている業者です。
起算日が違います。こちらは、引渡しを申し出た日からです。
順番はこうなります(第24条の4)。
- 工事が完成したことを、元請に伝える
- 元請は、その通知を受けた日から20日以内に完成検査を終える
- 検査が終わったあと、こちらが引渡しを申し出る
- その申出の日から50日以内で、かつできる限り短い期間で支払期日を決める

請求書を出した日でも、「払ってください」と言った日でもありません。
そのうえで、こう決まっています。
- 支払期日を決めなかった場合は、申出の日が支払期日とみなされます
- 50日を超える期日を決めた場合は、50日を経過する日が支払期日とみなされます
- 払わなければ、50日を経過した日から支払う日まで、遅延利息を払わなければなりません
ただし、下請側にも条件があります。下請が特定建設業者であるか、資本金4,000万円以上の法人である場合は、この50日ルールの対象外です(建設業法施行令第7条の2)。一人親方はふつう当てはまりませんが、条件として書いておきます。
1か月と50日の両方が当てはまるときは、早く来るほうの期限が基準になります。
相手が特定建設業者かどうかの調べ方
発注者から直接工事を請けた元請の許可区分は、現場の建設業許可票で確認できます。
ただし、自分に仕事を出した相手が二次下請・三次下請の場合、その相手の許可区分は現場の許可票では分かりません。事務所の許可票か、国土交通省の建設業者・宅建業者等企業情報検索システムで確認してください。
契約で決めた支払日は、これとは別です
ここが混ざりやすいところです。
元請がまだ入金を受けていなければ、第24条の3の「受け取った日から1か月」は始まっていません。
ただし、契約で決めた支払日は別です。
契約書や注文書・請書に「月末締め翌月末払い」と書いてあるなら、それはその約束です。元請の入金が遅れていることを理由に、契約の支払日を過ぎてよいことにはなりません。
いちばん効くのは、請ける前です
遅れてから確認できることは限られます。先に支払日を決めておくほうが、あとで動きやすくなります。
建設業法の第19条は、請負契約の当事者は次のことを書面に記載して相互に交付しなければならないと定めています。そのなかに、こう入っています。
十二 工事完成後における請負代金の支払の時期及び方法
支払いの時期と方法は、書面に書くことになっています。
だから、請ける前にこれを聞いてください。
- 何日締め、何日払いですか
- 請求書は、何日までに出しますか
- 振込ですか。手形などを使うことはありますか
- 振込手数料は、差し引かずに振り込んでもらえますか
- この支払条件を、注文書に書いてもらえますか(こちらから請書を出す場合も、同じ条件を書いてよいかを確認します)
そのまま使える形にしておきます。
「確認ですが、月末締め、翌月末の振込でよろしいでしょうか。請求書の提出期限も教えてください。振込手数料は差し引かずにお願いできますか。注文書にも支払条件の記載をお願いします」
フリーランス法が当てはまる取引では、合意があっても、振込手数料を報酬から差し引くことは「報酬の減額」として問題になります。差し引かない条件で、注文書や請書に残してください。
書面に書くことになっているものを聞くだけなので、わがままではありません。
聞いた条件は、こちらから出す見積書にも同じ形で書いておきます。書き方と記入例は人工代の見積書の書き方の記事にまとめました。
完成したことや引渡しを申し出たことも、口頭だけでなく、日付が残る形で伝えておくと、あとで確認しやすくなります。
遅れたと思ったら、まず日付を並べる
期限がいくつもあって、しかも数え方が違います。だから、自分の取引にどれが当てはまるかを、日付で並べるのが先です。
- 契約書や注文書に書かれた支払日
- 元請が、その上から工事代金を受け取った日
- 工事の完成を、元請へ伝えた日
- 完成検査のあと、引渡しを申し出た日
- フリーランス法を確認するなら、一連の仕事の提供が終わった日
これらは、同じ日とは限りません。
注文書、請書、請求書、メールやメッセージなど、日付の分かるものを手元に集めてください。分からない日付は、元請に確認します。
聞き方と、記録の残し方
いきなり「違反ではないですか」と言う必要はありません。まず、日付を確認します。
「○月分のお支払いは、何月何日のご予定でしょうか」
返事をもらったら、あとで確認できるように残しておきます。電話で聞いたときも、ひとことメッセージを送っておくと行き違いが減ります。
「先ほどのお電話で、○月○日にお支払い予定とうかがいました。私の聞き違いがあれば、お知らせください」
責める形にしないほうが、話は進みます。相手も、その上からの入金を待っているだけかもしれません。
日付を教えてもらえない、約束した日を過ぎても払われない、連絡が取れない。そうなったら、書類をそろえて相談してください。
相談先
支払いが遅れていても、この記事だけで違反と決めつけることはできません。相手の許可区分と、さきほどの日付を確認してから相談してください。分からない項目があっても、手元の書類を持って相談できます。
相談先は、相手が受けている建設業の許可によって変わります。
- 国土交通大臣の許可……地方整備局など
- 都道府県知事の許可……都道府県の建設業担当課
どこへ相談すればいいか分からないときは、国土交通省の建設業相談窓口ナビで確認できます。元請と下請の間の契約や支払いのもめごとは、建設業取引適正化センターでも相談を受け付けています。
なお、建設業法違反の疑いを通報する窓口は、駆け込みホットラインです。相談と通報は別の窓口だと考えてください。
フリーランス法が当てはまるか、60日の数え方を確かめたいときは、公正取引委員会のフリーランス法の窓口へ確認してください。
通報を理由に切るのは禁止されています
「言ったら次から声がかからなくなる」——この業界で相談が起きない理由です。
そこにも条文があります(建設業法第24条の5)。建設業法に定める一定の違反について、許可行政庁などへ通報したことを理由に、取引を止めるなどの不利益な扱いをすることは禁止されています。
ただし、どんな相談にも自動的に当てはまるわけではありません。
下請法は使えません。ただし、一人親方には別の法律があります
支払いの遅れというと、下請法を思い浮かべる人がいます。いまの名前は、中小受託取引適正化法です。
建設業者が請け負った建設工事を、別の建設業者へ請け負わせる取引には使えません。法律の第2条4項で、対象からはっきり外されています。ただし、資材の購入など、建設工事そのものではない取引は別です。
そのうえで、一人親方には別の法律があります。
2024年11月に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法は、建設業の一人親方にも当てはまります。公正取引委員会も、建設会社から住宅建設の仕事の一部を請ける一人親方を、対象の例に挙げています。
従業員を使っていない一人親方が、役員が2人以上いる法人、または従業員を使っている事業者から仕事を請けた場合、発注した側は、仕事の提供を受けた日から60日以内の、できるだけ早い日を支払期日に決めて、その日までに払わなければなりません(第4条1項・5項)。
役員が2人以上いる法人なら、従業員がいなくても対象です(第2条6項)。
- 日数のかかる仕事なら、一連の仕事が終わった日から数えます
- 別々の仕事として頼まれたものは、それぞれ仕事をした日が基準です。一連の仕事か別々の仕事かは、契約の中身で変わります
- 支払期日を決めなかったときは、仕事の提供を受けた日が支払期日とみなされます
- 60日を超える日を決めたときは、仕事の提供を受けた日を1日目として60日目が支払期日とみなされます(第4条2項)
再委託のときは、別の数え方になる場合があります。
元請が仕事を頼むときに、次の3つをこちらへあらかじめ明示していた場合です(第4条3項)。
- 再委託であること
- 元の発注者の名前
- 元の取引で決められた支払日
この3つを仕事を頼むときに明示した場合に限り、発注側は通常の60日に代えて、元の取引で決められた支払日から30日以内の、できるだけ早い日を支払期日にできます。
3つを明示していても、必ず30日を使うわけではありません。通常の60日で決めることもできます。公正取引委員会も、この例外は「適用しなければいけないものでもない」としています。
ここで基準になるのは、元請に実際に入金された日ではありません。元の取引であらかじめ決められていた支払日です。建設業法の「元請が実際に受け取った日から1か月」とは、そこが違います。
再委託であることなど3つを明示したのに、こちらへの支払期日を決めなかったときは、元の取引で決められた支払日が支払期日とみなされます。30日を超える日を決めたときは、その支払日から30日を経過する日が支払期日とみなされます(第4条4項)。
ただし、従業員を使っている一人親方は対象になりません。
ここでいう「従業員」は、原則として、週20時間以上、かつ31日以上雇う見込みの人です。短時間・短期間だけ人を雇う場合や、同居して生計も同じ親族だけが手伝っている場合は、ここでいう従業員に含まれません。
もう1つ。契約書に「一人親方」「業務委託」と書かれていても、働き方の実態から労働基準法などの労働者と判断される場合は、フリーランス法ではなく労働関係の法律で考えることになります。
「特定建設業者じゃないから50日は使えない」「元請がまだ入金されていないから1か月も始まらない」——そこで諦める前に、こちらが当てはまらないかを確認してください。
元請が破産したとき
私がいた会社は、元請に夜逃げされたことがあります。ただ、そのときは裁判所の破産手続にはなりませんでした。
裁判所が破産手続の開始を決めたあとは、まったく違います。未払いの代金は、原則として破産手続のなかで届け出て、配当を待つことになります。先に強く請求した人が、そのまま優先して全額を受け取れる仕組みではありません。
破産の前に受け取った支払いでも、法律上の条件に当てはまると、あとで返還を求められる場合があります。
元請と連絡が取れない、事務所が閉まっている、破産の知らせが届いた。そうなったら、自分だけで回収を進めず、契約書や請求書をそろえて早めに弁護士へ相談してください。
できる備えは、未収を溜めないことです。何か月分も残したまま相手が事業を止めると、その全額が回収できなくなるおそれがあります。
よくある質問
Q. 工事が終わって2か月経ちますが、払われません。違反ですか。
A. それだけでは決まりません。順番に見ます。
- 契約で決めた支払日を過ぎているか
- 建設業法の1か月……元請がその工事の代金を受け取った日から。対象は受け取った額と出来高に応じた分です
- 建設業法の50日……相手が特定建設業者で、引渡しを申し出た日から(※下請側が特定建設業者や資本金4,000万円以上の法人なら対象外)
- フリーランス法の60日……従業員を使っていない一人親方で、発注側にも条件が当てはまる場合
Q. 支払期日を決めずに請けてしまいました。
A. 支払日を決めていなくても、法律上の期限が当てはまる場合があります。
- 建設業法の50日……相手が特定建設業者なら、引渡しを申し出た日が支払期日とみなされます(※下請側が特定建設業者や資本金4,000万円以上の法人なら対象外)
- フリーランス法の60日……通常の60日が当てはまる場合は、仕事の提供を受けた日が支払期日とみなされます
- 再委託の30日……条件がそろっている場合は、元の取引で決められた支払日が支払期日とみなされます
- 建設業法の1か月……元請がその工事の代金を受け取った日から数えます
これらの期限を確認できない場合でも、口頭で決めた内容や請求の記録が手がかりになります。まず支払予定日を確認して、記録を残してください。次からは、請ける前に決めて書面に残してください。
Q. 手形で払うと言われました。
A. 建設業法では、労務費に相当する部分は現金で払うよう配慮する、とされています。また特定建設業者は、下請に一般の金融機関で割引を受けることが難しい手形を渡してはならないと定められています。ただし、下請側が特定建設業者や資本金4,000万円以上の法人なら対象外です(50日ルールと同じ条件です)。
このルールの対象になる支払いでは、2024年11月1日以降に交付される手形は、受け取ってから満期までの期間が60日を超えると、建設業法に違反するおそれがあります。
フリーランス法が当てはまる場合も、手形払いが直ちに禁止されるわけではありません。ただし、手形の金額と満期を明示する必要があり、手形を受け取ってから満期までの期間は60日以内とされています。現金化にかかる割引料などを一人親方の負担にしないよう、報酬の額を十分に話し合うことも求められます。公正取引委員会は、できるだけ手形以外の方法で払うことが望ましいとしています。
なお、ここでいう60日は、仕事が終わってから支払うまでの60日ではありません。手形を受け取ってから満期までの期間です。
Q. 「元請もまだもらってないから」と言われました。
A. 建設業法の「1か月」は始まっていないかもしれません。ただし、契約で決めた支払日は別です。そこを過ぎているなら、その約束は残っています。さらに、従業員を使っていない一人親方には、元請に実際に入金があったかとは関係なく、フリーランス法の60日が当てはまる場合があります。
Q. どこに相談すればいいですか。
A. 建設業法については、国土交通大臣の許可なら地方整備局など、都道府県知事の許可なら都道府県の建設業担当課です。分からないときは、本文の「相談先」にある建設業相談窓口ナビで確認できます。フリーランス法は、公正取引委員会の窓口へ相談してください。
まとめ
- 建設業法の期限は2つあり、数え方が違います
- 「1か月」は、建設業の許可を受けた元請がその工事の代金を受け取った日から。対象は受け取った額と出来高に応じた分です(第24条の3・第2条5項)
- 「50日」は、引渡しを申し出た日から。相手が特定建設業者のときです(第24条の6)。下請が特定建設業者や資本金4,000万円以上の法人なら対象外です
- 両方が当てはまるときは、早く来るほうの期限が基準です
- 契約で決めた支払日は、これとは別です。ここを混ぜないでください
- 遅れたと思ったら、契約の支払日/元請が受け取った日/完成を伝えた日/引渡しを申し出た日、フリーランス法を見るなら仕事の提供が終わった日を並べてから動きます
- 下請法は、建設工事の請負には使えません(中小受託取引適正化法第2条4項)。ただし、従業員を使っていない一人親方には、相手の規模などの条件を満たすと、フリーランス法の支払期限が当てはまる場合があります(原則60日以内)
- いちばん効くのは、請ける前に支払日を決めて書面に残すことです(第19条1項12号)
- 一定の違反を通報したことを理由に取引を止めるのは禁止されています(第24条の5)
私が見ていたのは、機嫌の悪い社長だけでした。その裏で何が起きていたかは、独立して初めて自分の問題になります。
請ける前に一言聞いておく。それだけで、あとの立ち位置が変わります。
ご本人と取引先で決めた支払条件を、見積書や請求書に入力して読みやすく整える作業は、トランジットでお手伝いできます。契約条件を決めることや、個別の契約が違反にあたるかどうかの判断は行いません。そこは許可行政庁や専門家へご相談ください。
(2026年8月時点の情報です。法令は改正されることがあります。ご自身の契約や取引の扱いは、元請や許可行政庁、専門家へご確認ください)
(出典:建設業法(第2条5項・第19条・第24条の3・第24条の4・第24条の5・第24条の6)/建設業法施行令(第7条の2)/中小受託取引適正化法(第2条)/フリーランス・事業者間取引適正化等法(第2条・第4条)/公正取引委員会・フリーランス法/公正取引委員会・フリーランス法Q&A(問31・問32・問78)/国土交通省「手形期間の短縮について」(令和6年5月1日・国不建推第12号)/国土交通省・建設業相談窓口ナビ/建設業取引適正化センター/国土交通省・駆け込みホットライン)
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