( 更新)
一人親方の保険・年金は何から考える?労災特別加入から共済まで順番に整理【FP2級×元現場19年】
この記事は約9分で読めます
(2026年8月時点の制度情報です。金額や条件は変わることがあるので、最終的には各制度の窓口や専門家に確認してください。この記事は保険商品の販売を目的としていません。扱うのは公的制度と共済が中心で、民間の保険商品は紹介していません)
独立すると、誰も何も言ってくれなくなります。会社員なら給料から勝手に引かれていた保険や年金を、一人親方は全部自分で選んで、自分で手続きする。「何から考えたらいいか分からないから、全部後回し」——これが一番多いパターンです。
先に前提をひとつ。健康保険と年金は、独立してからの土台です。健康保険は、会社の健康保険を続ける任意継続、市区町村の国保、建設国保、家族の扶養などから、自分が入れるものを見比べます。年金は、厚生年金を抜けたあと、原則として国民年金へ切り替えます。この記事は、その土台の上で、建設国保・付加年金・共済・iDeCoなどをどう考えるかの整理です。
この記事でわかること
- 独立したあと、健康保険と年金をどう選び直すか
- 労災の特別加入から共済まで、考える順番が6つあること
- 月400円の付加年金など、小さくても効く上乗せ
私自身も、独立準備ではこの順番で整理しました。物差しはシンプルです。
考える順番の物差し
- 現場に立つため
- 倒れたとき、生活を守るため
- 老後を作るため
- 節税するため
健康保険と国民年金の手続きは、先にやります。期限のある制度だからです。付加年金や共済などの任意の制度は、上から順に、余力が出たら次へ。
この物差しに沿って、6つの制度を順番に整理します。
順番1:労災の特別加入——現場に立つための装備

一番最初に考えるのは、投資でも節税でもありません。現場でケガをしたときに、生活が止まらないこと。 ここが一人親方のスタートラインです。
本当に一人親方として働く人は「労働者」ではないので、原則として労災保険の対象外です。特別加入していないと、現場のケガで労災としての治療費・休業補償・障害補償などを受けられません。体ひとつで稼ぐ商売で、その体の保険がない状態は、装備なしで現場に入るのと同じです。
なお、名目が一人親方でも、実際は雇われて働く形なら扱いが変わります。誰が仕事のやり方を決めるか、仕事を断れるか、道具を誰が用意するか。そうした実態で見られます(詳しくは再下請負通知書の記事にまとめました)。
加入は、特別加入団体を通じて行うのが基本です。地域の一人親方向けの団体に申し込み、給付基礎日額(補償のベースになる金額)を選びます。日額を上げれば掛金も補償も上がる仕組みなので、自分の日当と生活費を見ながら選ぶことになります。
実務の話をひとつ。管理の厳しい現場では、元請さんから特別加入の証明を求められます。安全書類とセットの世界です(詳しくは安全書類の記事で書きました)。法律ですべての一人親方に義務づけられているわけではありませんが、証明を出せないと現場に入れないことがあります。その意味で、現場に立つための装備の話です。
もうひとつ。特別加入は自動では付きません。団体に申し込んだその日から補償されるわけでもないので、補償が始まる日を団体に確認してから現場へ入ってください。
順番2:国保——建設国保という選択肢も見比べる
会社を辞めたあとの健康保険は、国民健康保険(国保)だけではありません。会社の健康保険を続ける「任意継続」、市区町村の国保、建設国保、家族の扶養から、自分が入れるものと保険料を見比べます。
任意継続には期限があります。原則として、資格を失った日から20日以内の申し出です。しかも、退職日までにその健康保険へ続けて2か月以上入っていた人が対象です。辞めてから考え始めると間に合いません。
そのうえで知っておきたいのが、市町村の国保のほかに、建設業で働く人向けの国保組合(いわゆる建設国保)があることです。
違いをざっくり言うと、市町村国保は前年の所得で保険料が決まり、建設国保は年齢や家族構成などで決まる組合が多い、という保険料の決まり方の差です。
ただし、どちらが安いかは一概に言えません。 地域・組合・所得・年齢・家族構成・加入条件で有利不利が変わります。「建設国保のほうが得らしい」という現場のうわさだけで動かず、自分の条件で両方の金額を出して見比べてください。
順番3:国民年金+付加年金——月400円の小さな上乗せ
国民年金は義務なので「入るかどうか」の話ではありませんが、その横に付加年金という小さな制度があります。
月400円を上乗せして納めると、将来の年金が「200円×納めた月数」増える、という仕組みです(日本年金機構)。2年以上受け取ると、納付した付加保険料以上になる計算の制度で、金額は小さいですが、負担も小さい。国民年金の前納や口座振替の割引と合わせて、まず足元を固める枠です。
注意点はひとつ。国民年金基金の加入員は、付加保険料を納付できません。基金については順番5で触れます。
順番4:小規模企業共済——自分で退職金を作る制度
一人親方になると、会社員のように会社が用意してくれる退職金はありません。だからこれは「老後のため」というより、自分で退職後の金を作る制度と考えるのが分かりやすいです。
- 掛金は月1,000円〜70,000円の範囲で選べて、あとから増減できる。苦しい時期は下げられる柔軟さがあります
- 掛金は全額が所得控除になります(中小機構)。ここで順番3までとの違いが出ます——守りを固めながら、税金も軽くなる枠です
- ただし正確に言うと、これは所得控除であって、事業の必要経費ではありません。帳簿の上での扱いが違うので、確定申告のときに混同しないよう注意してください
窓口は中小機構(国の機関)です。金融機関経由で申し込めます。
順番5:iDeCo・国民年金基金——余力が出てからの比較枠
「年金、もっと増やしたほうがいいのか」と考え始めたら、iDeCoと国民年金基金が比較の候補になります。ただし、私はこれを5番目に置きます。
理由ははっきりしています。iDeCoは原則60歳まで引き出せないからです。 売上がまだ安定しない時期は、いざというときに自由に使えるお金を手元に残しておくほうが安心です。掛金の所得控除という利点は小規模企業共済と同じ方向なので、先に共済、余力が出たらこの枠、という順番です。
比較のポイントだけ整理しておきます。
- iDeCo(公式サイト):自分で運用先を選ぶ積立。所得控除あり。ただし口座管理などの手数料がかかり、運用次第で元本割れもあります。一人親方(国民年金の第1号被保険者)の掛金上限は月68,000円ですが、これは国民年金基金・付加保険料との合算枠です(付加年金に入っている場合は月67,000円)。※この共通の上限は、2026年12月1日から月75,000円へ引き上げられる予定です
- 国民年金基金(公式サイト):将来もらえる額が決まっているタイプの上乗せ年金。付加年金とは併用不可。iDeCoとは掛金の枠を分け合う関係です
どちらが合うかは、性格と事業の安定度次第。ここは焦って決める場所ではありません。
順番6:経営セーフティ共済——元請の倒産に備える任意枠
最後は、老後ではなく商売のリスクに備える枠です。
経営セーフティ共済(倒産防止共済)は、取引先が倒産したときに、掛金に応じた借入れができる制度です(中小機構)。一人親方にとっての「取引先の倒産」は、元請さんの倒産で売掛金が飛ぶこと。何十万・何百万の売掛金を持つようになってきたら、検討する価値が出てきます。
ただし、独立してすぐ入れる制度ではありません。個人事業主は、原則として事業を1年以上続けていることが加入の条件です(中小機構・加入資格)。
掛金は経費にできるため「節税になる」と紹介されがちですが、正直に書きます。これは節税ではなく、課税の繰り延べです。 解約時に受け取るお金は収入として課税されるので、税金が消えるわけではなく、後ろにずれるだけです。また、掛金の納付月数が浅いうちに解約すると元本割れがあります。さらに、解約してから2年を経過する日までに再び加入した場合、その間に払う掛金は必要経費にできません(2024年10月1日以降に解約した場合)。「売掛金が大きくなってから、出口も考えたうえで」の任意枠です。
ここまでの順番を、1枚にまとめました。

画像は保存して、余力が出たときの見直しに使ってください。
よくある質問
Q. 生命保険や医療保険は何番目? 家族構成・貯金・公的保障でどこまでカバーされるか次第で、答えが人によって変わる分野です。この記事では商品の判断はしません。まず公的制度でどこまでカバーされるかを知ってから、足りない分を検討する順番が損をしにくいです。
Q. 扶養家族がいる場合は? 順番の物差しは同じですが、「倒れたとき」の枠の重みが増します。労災特別加入の給付基礎日額を家族の生活費ベースで考える、が出発点になります。
Q. NISAはどこに入る? 老後・資産づくり枠の選択肢のひとつです。iDeCoと違って必要なときに売却できますが、預金ではありません。現金になるまで時間がかかりますし、値下がりしているときに売れば損が出ます。iDeCoとの使い分けは話が長くなるので、NISAとiDeCoの記事に分けて整理しました。
まとめ
- 考える順番は、「現場に立つ→生活を守る→老後を作る→節税する」の4段
- 労災特別加入 → 2. 健康保険の選択肢を比べる(任意継続・市区町村国保・建設国保・家族の扶養)→ 3. 付加年金 → 4. 小規模企業共済 → 5. iDeCo・国民年金基金の比較 → 6. 経営セーフティ共済
- 健康保険と国民年金の手続きは先に。期限があります。付加年金や共済などの任意の制度は、上から順に、余力が出たら次へ
- 最終判断は、必ず各制度の窓口や専門家への確認を

どれにいくら掛けられるかは、結局、帳簿が整理できていて初めて判断できます。売上と経費が箱の中のレシートのままでは、掛金の余力も見えません。まずは確定申告の記事の3つの準備から。領収書・売上メモ・書類の整理や、専門家に確認する前の情報整理のお手伝いは、XのDM(@transit_40)でどうぞ(税額の計算・申告の判断・加入すべきかの判断はできませんが、その手前を整えます)。
最初のご相談では、領収書や通帳そのものを送らないでください。 どれくらいの量があるか(枚数と期間)だけ教えてください。金額や取引先が写ったものは、ご依頼が決まってから受け渡し方法をご案内します。
あわせて読みたい
- 住宅着工は8.2%増。それでも自分の仕事が増えたとは限らない理由
2026年7月の新設住宅着工は前年同月比8.2%増でした。ただし持家は+0.4%、中部圏は-6.1%、医療・福祉に使う建物は-15.0%です。国土交通省の建築着工統計を、持家・貸家・分譲、地域、住宅以外の建物まで分けて読む方法と、自分の仕事で確認する4つを整理します。
- 一人親方の帳簿のつけ方|白色でも記帳は義務。青色の10万・55万・65万は何が違う?
事業所得として申告する一人親方は、白色申告でも記帳と保存が必要です。何を何年残すのか、青色の10万円・55万円・65万円の分かれ目、PDFで受け取った請求書の扱い、会計ソフトで最初に決める3つを、国税庁の資料で確認して整理します。
- 元請の支払いが遅い|「1か月・50日・60日」の違いと、請ける前に決めておくこと
下請代金の支払いには、建設業法の1か月・50日と、条件によって一人親方に当てはまるフリーランス法の60日があります。契約で決めた支払日との違い、それぞれの起算日、遅れたときに並べる記録を条文から整理しました。