2026-07-10

一人親方の保険・年金は何から考える?労災特別加入から共済まで順番に整理【FP2級×元現場19年】

この記事は約7分で読めます

(2026年7月時点の制度情報です。金額や条件は変わることがあるので、最終的には各制度の窓口や専門家に確認してください。この記事は保険商品の販売を目的としていません。扱うのは公的制度と共済が中心で、民間の保険商品は紹介していません)

独立すると、誰も何も言ってくれなくなります。会社員なら給料から勝手に引かれていた保険や年金を、一人親方は全部自分で選んで、自分で手続きする。「何から考えたらいいか分からないから、全部後回し」——これが一番多いパターンです。

先に前提をひとつ。国保と国民年金は、選ぶ・選ばないの話ではなく全員の土台です。この記事は、その土台の上で、建設国保・付加年金・共済・iDeCoなどをどう考えるかの整理です。

私自身も、独立準備ではこの順番で整理しました。物差しはシンプルです。

考える順番の物差し

  1. 現場に立つため
  2. 倒れたとき、生活を守るため
  3. 老後を作るため
  4. 節税するため

上から順に。全部一気にやらなくていい。余力が出たら次へ。

この物差しに沿って、6つの制度を順番に整理します。

順番1:労災の特別加入——現場に立つための装備

もし現場でケガをしたら——一人親方は原則、労災の対象外

一番最初に考えるのは、投資でも節税でもありません。現場でケガをしたときに、生活が止まらないこと。 ここが一人親方のスタートラインです。

一人親方は「労働者」ではないので、原則として労災保険の対象外です。特別加入していないと、現場のケガで労災としての治療費・休業補償・障害補償などを受けられません。体ひとつで稼ぐ商売で、その体の保険がない状態は、装備なしで現場に入るのと同じです。

加入は、特別加入団体を通じて行うのが基本です。地域の一人親方向けの団体に申し込み、給付基礎日額(補償のベースになる金額)を選びます。日額を上げれば掛金も補償も上がる仕組みなので、自分の日当と生活費を見ながら選ぶことになります。

実務の話をひとつ。管理の厳しい現場では、元請さんから特別加入の証明を求められます。安全書類とセットの世界です(詳しくは安全書類の記事で書きました)。つまりこれは「入るかどうか」ではなく、現場に立つための装備の話です。

順番2:国保——建設国保という選択肢も見比べる

会社を辞めたら、健康保険は国民健康保険(国保)に切り替わります。ここで知っておきたいのが、市町村の国保のほかに、建設業で働く人向けの国保組合(いわゆる建設国保)があることです。

違いをざっくり言うと、市町村国保は前年の所得で保険料が決まり、建設国保は年齢や家族構成などで決まる組合が多い、という保険料の決まり方の差です。

ただし、どちらが安いかは一概に言えません。 地域・組合・所得・年齢・家族構成・加入条件で有利不利が変わります。「建設国保のほうが得らしい」という現場のうわさだけで動かず、自分の条件で両方の金額を出して見比べてください。

順番3:国民年金+付加年金——月400円の小さな上乗せ

国民年金は義務なので「入るかどうか」の話ではありませんが、その横に付加年金という小さな制度があります。

月400円を上乗せして納めると、将来の年金が「200円×納めた月数」増える、という仕組みです(日本年金機構)。2年以上受け取ると、納付した付加保険料以上になる計算の制度で、金額は小さいですが、負担も小さい。国民年金の前納や口座振替の割引と合わせて、まず足元を固める枠です。

注意点はひとつ。国民年金基金の加入員は、付加保険料を納付できません。基金については順番5で触れます。

順番4:小規模企業共済——自分で退職金を作る制度

一人親方には退職金がありません。だからこれは「老後のため」というより、自分で自分の退職金を作る制度と考えるのが分かりやすいです。

  • 掛金は月1,000円〜70,000円の範囲で選べて、あとから増減できる。苦しい時期は下げられる柔軟さがあります
  • 掛金は全額が所得控除になります(中小機構)。ここで順番3までとの違いが出ます——守りを固めながら、税金も軽くなる枠です
  • ただし正確に言うと、これは所得控除であって、事業の必要経費ではありません。帳簿の上での扱いが違うので、確定申告のときに混同しないよう注意してください

窓口は中小機構(国の機関)です。金融機関経由で申し込めます。

順番5:iDeCo・国民年金基金——余力が出てからの比較枠

「年金、もっと増やしたほうがいいのか」と考え始めたら、iDeCoと国民年金基金が比較の候補になります。ただし、私はこれを5番目に置きます。

理由ははっきりしています。iDeCoは原則60歳まで引き出せないからです。 売上がまだ安定しない時期は、いざというときに自由に使えるお金を手元に残しておくほうが安心です。掛金の所得控除という利点は小規模企業共済と同じ方向なので、先に共済、余力が出たらこの枠、という順番です。

比較のポイントだけ整理しておきます。

  • iDeCo公式サイト):自分で運用先を選ぶ積立。所得控除あり。ただし口座管理などの手数料がかかり、運用次第で元本割れもあります。一人親方(国民年金の第1号被保険者)の掛金上限は月68,000円ですが、これは国民年金基金・付加保険料との合算枠です(付加年金に入っている場合は月67,000円)
  • 国民年金基金公式サイト):将来もらえる額が決まっているタイプの上乗せ年金。付加年金とは併用不可。iDeCoとは掛金の枠を分け合う関係です

どちらが合うかは、性格と事業の安定度次第。ここは焦って決める場所ではありません。

順番6:経営セーフティ共済——元請の倒産に備える任意枠

最後は、老後ではなく商売のリスクに備える枠です。

経営セーフティ共済(倒産防止共済)は、取引先が倒産したときに、掛金に応じた借入れができる制度です(中小機構)。一人親方にとっての「取引先の倒産」は、元請さんの倒産で売掛金が飛ぶこと。何十万・何百万の売掛金を持つようになってきたら、検討する価値が出てきます。

掛金は経費にできるため「節税になる」と紹介されがちですが、正直に書きます。これは節税ではなく、課税の繰り延べです。 解約時に受け取るお金は収入として課税されるので、税金が消えるわけではなく、後ろにずれるだけです。また、掛金の納付月数が浅いうちに解約すると元本割れがあり、解約後の再加入にも制限があります。「売掛金が大きくなってから、出口も考えたうえで」の任意枠です。

ここまでの順番を、1枚にまとめました。

一人親方の保険・年金 考える順番(保存用)

画像は保存して、余力が出たときの見直しに使ってください。

よくある質問

Q. 生命保険や医療保険は何番目? 家族構成・貯金・公的保障でどこまでカバーされるか次第で、答えが人によって変わる分野です。この記事では商品の判断はしません。まず公的制度でどこまでカバーされるかを知ってから、足りない分を検討する順番が損をしにくいです。

Q. 扶養家族がいる場合は? 順番の物差しは同じですが、「倒れたとき」の枠の重みが増します。労災特別加入の給付基礎日額を家族の生活費ベースで考える、が出発点になります。

Q. NISAはどこに入る? 老後・資産づくり枠の選択肢のひとつです。所得控除はない代わりに、いつでも引き出せる自由度があります。iDeCoとの使い分けは話が長くなるので、別の記事で整理する予定です。

まとめ

  • 考える順番は、「現場に立つ→生活を守る→老後を作る→節税する」の4段
    1. 労災特別加入 → 2. 国保・建設国保の確認 → 3. 付加年金 → 4. 小規模企業共済 → 5. iDeCo・国民年金基金の比較 → 6. 経営セーフティ共済
  • 全部一気にやらなくていい。上から順に、余力が出たら次へ
  • 最終判断は、必ず各制度の窓口や専門家への確認を

レシートを前に悩む親方——帳簿が整ってこそ掛金の余力が見える

どれにいくら掛けられるかは、結局、帳簿が整理できていて初めて判断できます。売上と経費が箱の中のレシートのままでは、掛金の余力も見えません。まずは確定申告の記事の3つの準備から。領収書・売上メモ・書類の整理や、専門家に確認する前の情報整理のお手伝いは、XのDM(@transit_40)でどうぞ(税額の計算・申告の判断・加入すべきかの判断はできませんが、その手前を整えます)。

あわせて読みたい

現場書類・ホームページの相談はこちら