住宅着工は8.2%増。それでも自分の仕事が増えたとは限らない理由
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(2026年9月8日時点で公表されている数字です。統計は毎月更新されるので、最新の数字は国土交通省の公表資料で確認してください)
現場にいた頃、景気がいいというのは「仕事が途切れずに入ってくること」でした。こちらから声をかけなくても、向こうから頼んでくる。その状態が続いているときです。
一人でやっているうちは、応援に行って食いつなげます。ただ、三人四人と人を使うようになると、仕事が切れるタイミングは必ず来ます。それが来ないのが好景気だと思っていました。
ニュースの数字を見て、そう感じたことは一度もありません。
2026年に入って、東証の業種別株価指数は、建設業も不動産業も下げています。2025年12月末と2026年8月末を比べると、建設業は約4.1%、不動産業は約4.8%下がりました。
ところが7月の新設住宅着工戸数は、前年同月比で8.2%増えました。4か月連続の増加です。
株価は下がっている。着工は増えている。 どちらも本当です。
この記事は「金利が上がったから仕事が減る」と予測するための記事ではありません。国が出している数字を、自分が入っている現場の種類まで分けて読むための記事です。
この記事でわかること
- 「+8.2%」と「-1.6%」が同じ発表に並ぶ理由
- 持家・貸家・分譲で、伸び方がまったく違うこと
- 住宅以外(事務所・工場・倉庫・店舗)の数字
- 地域で分けると、どこが減っているか
- 自分の仕事で確認する4つ

まず、比べ方の違う3つの数字を分けます
国土交通省が2026年8月31日に公表した「建築着工統計調査報告(令和8年7月分)」に、次の3つが並んでいます。
- 新設住宅着工戸数 66,439戸
- 前年同月比 +8.2%(4か月連続の増加)
- 季節調整済年率換算値 774千戸、前月比 -1.6%(3か月ぶりの減少)
「8.2%増えた」と「1.6%減った」が、同じ発表の中にあります。 矛盾ではありません。比べている相手が違うだけです。
- 66,439戸 = その月に実際に着工した戸数
- +8.2% = 去年の7月と比べた増減
- -1.6% = 季節による偏りをならして1年分に引き伸ばした数字を、先月と比べた増減
住宅の着工には、年度末に増えるといった季節の癖があります。それを取り除いて月ごとに比べられるようにしたのが、季節調整済年率換算値です。去年と比べれば増えていて、先月と比べれば減っている。 そういう月でした。
3年分の7月を並べます
前年同月比は、去年の同じ月と比べます。だから、去年が悪い年だと、今年が普通でも大きく増えて見えます。
| 新設住宅着工戸数 | 前年同月比 | |
|---|---|---|
| 2024年7月 | 68,021戸 | -0.2%(3か月連続の減少) |
| 2025年7月 | 61,409戸 | -9.7%(4か月連続の減少) |
| 2026年7月 | 66,439戸 | +8.2%(4か月連続の増加) |
今年の+8.2%は、去年9.7%減ったあとの数字です。そして66,439戸は、2年前の68,021戸にまだ届いていません。 差は1,582戸、率にして約2.3%です。
増えたことは事実です。ただ、戻りきってはいません。ニュースが伝えるのは、たいてい前年同月比のひとつだけです。
全国の+8.2%を、住宅の種類で分けます
同じ7月の数字を、利用関係別に分けます。
| 種類 | 戸数 | 前年同月比 |
|---|---|---|
| 持家 | 17,730戸 | +0.4% |
| 貸家 | 30,164戸 | +10.0% |
| 分譲住宅 | 18,208戸 | +14.6% |
※このほかに給与住宅(社宅など)があります。分譲住宅の内訳は、マンション7,448戸が+24.7%、一戸建10,578戸が+9.0%です。

持家は、ほぼ前年並みです。 減ってはいませんが、全体の+8.2%を作っているのは貸家と分譲です。
この3つは、建てると決める人が違います。
- 持家 = 個人が、自分が住むために建てる
- 貸家 = 大家や事業者が、貸すために建てる
- 分譲住宅 = 不動産会社などが、売るために建てる
決める人が違えば、動く理由も違います。個人は自分の収入と借入で判断します。貸家や分譲は、事業として採算が合うかどうかで判断します。
「住宅着工」とひとくくりにすると、この差が見えなくなります。 戸建ての新築を主にやっている人と、賃貸マンションの仕事が多い人とでは、同じ月でも景色が違います。
住宅以外は、どうなっているか
「住宅着工」という名前ですが、同じ発表には住宅以外の建物の数字も載っています。 店舗、事務所、工場、倉庫。ここで食べている人のほうが多い職種もあります。
| 建築主 | 着工床面積 | 前年同月比 |
|---|---|---|
| 全建築物 | 828万㎡ | +9.4%(3か月連続の増加) |
| 公共の建築主 | 44万㎡ | -7.5%(3か月ぶりの減少) |
| 民間の建築主 | 784万㎡ | +10.6% |
| うち居住用 | 528万㎡ | +7.6% |
| うち非居住用 | 256万㎡ | +17.4% |
民間が建てる住宅以外の建物は+17.4%で、住宅(+7.6%)より伸びています。
建物そのものの使いみち(統計上の「使途別」)で分けると、こうなります。
| 使いみち | 着工床面積 | 前年同月比 |
|---|---|---|
| 事務所 | 37万㎡ | +30.3%(2か月連続の増加) |
| 工場 | 51万㎡ | +29.2%(5か月ぶりの増加) |
| 倉庫 | 58万㎡ | +12.1%(3か月ぶりの増加) |
| 店舗 | 28万㎡ | +5.1%(8か月ぶりの増加) |
店舗は8か月ぶり、工場は5か月ぶりの増加でした。どちらも、久しぶりに前年を上回った月ということになります。
もうひとつ、建物を使う業種(統計上の「用途別」)で分けた数字もあります。こちらは増減が分かれました。
- 医療・福祉用 17万㎡ -15.0%
- 情報通信業用 3万㎡ -37.4%
- 製造業用 61万㎡ +19.8%
病院や介護施設の仕事を主にやっている人にとっては、全国が+9.4%でも、自分に近い欄は-15.0%です。 公共の建築主も-7.5%でした。
なお、この統計に入るのは建築物の着工だけです。 道路、橋、上下水道といった土木工事の量も、店舗の内装や改修のような工事の量も、この統計では分かりません。土木を含む工事の受注は、国土交通省の建設工事受注動態統計調査など、別の統計で見ることになります。
地域で分けると、また違います
この統計は、三大都市圏とそれ以外に分けた数字も出しています。
| 地域 | 総戸数の前年同月比 |
|---|---|
| 首都圏 | +13.8% |
| 中部圏 | -6.1% |
| 近畿圏 | +17.3% |
| その他地域 | +3.6% |
※この統計の首都圏は埼玉・千葉・東京・神奈川、中部圏は岐阜・静岡・愛知・三重、近畿圏は滋賀・京都・大阪・兵庫・奈良・和歌山です。それ以外は「その他地域」に分けられます。
全国が+8.2%でも、中部圏は-6.1%です。 中身は持家-1.6%、貸家+2.5%、分譲-17.3%で、分譲マンションは-46.9%でした。
「その他地域」も、ひとくくりにはできません。 全体は+3.6%ですが、持家は-0.4%、貸家は-5.8%で、どちらも前年を下回っています。増えているのは分譲(+34.3%)です。
ここで、ひとつ注意があります。分譲マンションなどの共同住宅は、1棟の着工で複数の住戸が、その月の着工戸数にまとめて計上されることがあります。 そのため、大きな物件の着工が1件あるかないかで、月の数字が大きく振れます。「その他地域」のマンションが+102.5%になっているのも、この振れ方の中で見る必要があります。
1か月の地域の数字だけを見て、その地域全体が良くなった・悪くなったとは決められません。
金利は、どこまで関係しているのか
日本銀行は2026年6月16日、無担保コールレート(オーバーナイト物)を1.0%程度で推移するよう促すことを決めました。 それまでは0.75%程度です。賛成7・反対1でした。次の金融政策決定会合は、2026年9月17日から18日に開かれます。
一般に、政策金利が上がると、住宅ローンや事業の借入にかかる費用に影響します。金利が上がれば、住宅の購入や建築を見送る人が増え、現場の仕事にも影響する可能性があります。
ただ、その筋道が一般に成り立つことと、7月の数字がそうなっていることは、別の話です。
7月の持家が+0.4%だったことについて、「6月の利上げが原因だ」とは書けません。理由は3つあります。
- 着工は、契約や設計、確認などを経たあとに来ます。 6月の利上げの直後にあたる7月の着工だけを見て、影響が出たとも、出ていないとも決められません
- 動いている要因が金利だけではありません。 土地の価格、建築費、所得、住宅まわりの制度の変更、前の年の水準。どれも同時に効いています
- 1か月の数字では、原因をひとつに絞れません
分かるのは「7月はこうなっていた」というところまでです。この1か月だけで、先を言い当てることはできません。
株価と着工戸数は、同じものを見ていません
最初に書いたとおり、株価は下がり、着工は増えました。この2つは、そもそも見ているものが違います。
- 株価 = その会社がこれから稼ぐ利益について、市場が今どう見ているか
- 着工統計 = 先月、実際に着工した建物の数と面積
株価は「これから」を織り込もうとし、着工統計は「もう起きたこと」を数えています。見ている時間軸が違います。
対象も違います。株価指数に入るのは上場している会社です。着工統計には、上場していない工務店やビルダーが手がける建物も含まれます。
冒頭に挙げた数字の中身です。東証の業種別株価指数(配当を含まない指数)を、2025年12月末と2026年8月末で比べました。
| 業種 | 2025年12月末 | 2026年8月末 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 建設業 | 2,714.16 | 2,602.57 | -4.1% |
| 不動産業 | 2,628.15 | 2,501.98 | -4.8% |
株価が下がっていることだけを見て「現場の仕事が減っている」とは判断できません。 逆に、着工が増えたからといって、株価が上がるとも限りません。
(この記事は、特定の銘柄や売り買いについて書くものではありません。投資の判断は、ご自身で、必要なら専門の方に確認してください)
自分の仕事で確認する4つ
ここまでは全部、全国の数字です。自分の現場の話ではありません。
正直に書くと、私も現場にいた頃、自分が入っている建物が持家なのか、貸家なのか、分譲なのかを考えたことはありませんでした。 図面と工程と、明日どこへ行くか。見ていたのはそれだけです。
ただ、自分で仕事を取る側になると、そこが効いてきます。国の数字を見るより先に、手元の4つを確認するほうが早いです。

① 過去半年の現場を、種類別に数える
紙でもスマホのメモでも構いません。半年分だけ、こう分けます。
- 持家の新築
- 貸家(アパート・賃貸マンション)
- 分譲住宅(建売・分譲マンション)
- 非居住建築物(店舗・事務所・工場・倉庫・医療福祉など)
- 改修や内装、土木など、この着工統計では直接分からない工事
数えてみると、自分の仕事が、統計のどの欄に近いのかが見えてきます。 そのうえで、この記事の数字を見直してください。自分に近い欄が動いているのか、まったく別の欄なのか。それが、全国の+8.2%より先に知りたい情報です。
数えるには、現場ごとの記録が要ります。売上を現場の名前で分けて記録しておくと、あとから追えます(帳簿のつけ方の記事にまとめました)。
② 元請ごとの売上の割合を出す
今年の売上を、元請ごとに割ってみます。1社で7割、8割になっていないか。
ここでは「今すぐ増やせ」とは書きません。 声をかけて回れば増えるものでもありません。まず、偏っているかどうかを自分で知っておく。それだけで十分です。
割合が分かっていれば、その元請の仕事が細ったときに、売上全体の何割が影響を受けるのかを見積もれます。 支払いの条件を確かめておくことも、同じ備えです(元請の支払いが遅いときの記事)。
③ これから3か月の予定を、決まり方で分ける
手帳に書いてある予定を、4つに分けます。
- 決定済み(日程も金額も決まっている)
- 見積もりを出して、返事待ち
- 口頭で頼まれただけ
- 「そのうち」で、時期が決まっていない
下の2つを予定として数えていると、実際より忙しく見えます。 口頭の依頼をどう扱うかは、追加工事を口頭で頼まれたときの記事に書きました。
④ 1か月の数字だけで、単価を動かさない
統計は毎月出ます。ひと月ごとに上がったり下がったりします。
「今月は着工が減ったから、単価を下げてでも取りにいこう」。これをやると、下げた単価が次の見積りの基準になります。 戻すときには、値上げの交渉をすることになります。
見るなら、3か月から6か月の動きと、自分の受注を一緒に見てください。 単価の考え方は労務単価の調べ方の記事に、見積書の書き方は人工代の見積書の記事にまとめています。
よくある質問
Q. 建築着工統計は、いつ出ますか?
国土交通省が毎月、前の月分を公表しています。7月分は8月31日に出ました。その月が終わってから1か月ほどで出てくる、ということになります。
Q. 自分の都道府県の数字は見られますか?
見られます。国土交通省の公表資料には都道府県別の表があり、政府統計のポータルサイト(e-Stat)でも公開されています。ただし、県単位になるほど1棟の影響が大きくなるので、1か月の増減だけで判断しないほうが安全です。
Q. 金利が上がると、一人親方の借入にも影響しますか?
一般論として、政策金利は世の中の金利の水準に影響します。車や道具のローン、事業資金の借入も、そこから外れてはいません。ただし、実際にご自身の借入がどうなるかは、契約が固定金利か変動金利か、いつ借りたかによって変わります。 契約書か、借りている金融機関に確認してください。
Q. 結局、今は仕事が増える時期ですか、減る時期ですか?
この記事では、そこは書けません。 分かるのは、7月に着工した建物の数と面積、そしてその中身の違いまでです。この1か月分だけで、先を言い当てることはできません。
まとめ
- 7月の新設住宅着工は66,439戸・前年同月比+8.2%。ただし前の年が9.7%の減少だったあとの数字で、2年前の68,021戸には届いていません
- 種類で分けると持家+0.4%・貸家+10.0%・分譲+14.6%。 決める人が違うので、動く理由も違います
- 住宅以外も同じ発表に載っています。民間の非居住用は+17.4%で住宅より伸び、工場+29.2%・店舗+5.1%。一方で医療・福祉用-15.0%、公共の建築主-7.5%
- 地域では中部圏-6.1%。 「その他地域」も持家-0.4%・貸家-5.8%で、増えているのは分譲です
- 改修・内装・土木の仕事量は、この統計では分かりません
全国の数字は、自分の現場の数字ではありません。
金利がほとんど動かなかった時代から、金利を見て判断する時代に移ってきました。借入の条件によっては負担が重くなる一方、預金や国債につく利息のほうにも変化が出ています。どちらか片方だけを見て、いい・悪いと決める話ではないと思っています。
全国の着工戸数が増えていても、自分の現場が増えるとは限りません。
自分の仕事に近い種類と地域へ分けて、手元の予定と見比べる。
自分の仕事の偏りと、3か月先の予定が見えていれば、仕事が切れたときにも慌てにくくなります。 次に確認する相手や、先に進めておく準備を、自分で選べます。
統計は、不安になるために見るものではありません。次の一手を自分で選ぶために使えます。
現場ごとの売上や経費を分けて記録するところ、請求書や領収書の整理は、トランジットでお手伝いできます。 (料金の目安はこちら)XのDM(@transit_40)かLINEからどうぞ。
なお、申告書の作成と税務相談は税理士さんの仕事です。 投資や資金繰りの助言もいたしません。書類と数字を、あとから追える形に整えるところまでが、こちらの仕事です。
【参考にした資料】
- 国土交通省「建築着工統計調査報告(令和8年7月分)」2026年8月31日公表
- 国土交通省「建築着工統計調査報告(令和7年7月分)」「建築着工統計調査報告(令和6年7月分)」
- 日本銀行「金融市場調節方針の変更について」2026年6月16日
- 日本取引所グループ「株価指数ヒストリカルグラフ」東証業種別株価指数 建設業・不動産業(2025年12月30日および2026年8月31日の終値/データ提供:QUICK)
- 日本取引所グループ「統計月報(2026年7月)」東証業種別株価指数(年月末・日別)
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