職人が独立する前にやること|辞める順番と、先に知りたかった雇用保険

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人が抜けた現場に、応援で入ったことがあります。

独立した人、よそへ行った人、業界そのものを出た人。抜け方はいろいろでした。残った側は「応援来てくれ」と方々に声を掛けまくって、その現場はなんとか終わりました。

抜けていく職人を、何度も見送る側にいました。そのあと、自分も辞める側になりました。

辞めると決めてから実際に辞めるまでに、やったことがあります。順番があります。今日はその話です。

この記事でわかること

  • 辞めると決めてから、実際に辞めるまでにやることの順番
  • 独立する前に確認する5つ
  • 雇用保険を、辞める前に確認しておく理由

夕方、現場を終えた軽トラックの車内で、ノートと電卓を前に独立の準備を考える作業着姿の職人

先に結論

  • 辞めると決めた日から辞める日までは、準備に使える期間です。勢いで辞めると、この期間が消えます
  • 確認するのは、①家計と支払いを出す ②仕事の入り口を決める ③単価と入金日を確かめ、金をためる ④資格・保険・道具をそろえる ⑤会社へ伝え、引き継ぐの5つです
  • 退職後の健康保険や年金、会社からもらう書類も、在職中に確認しておきます。切替には短い期限があります
  • 辞めたあと、もう一度どこかで働くのか、独立に専念するのかで、使う雇用保険の制度が変わります

独立する前に確認する5つ

先に、正直に書いておきます。

私が実際にやった順番は、家計を出す、生活防衛費をためる、進む方向を決める、資格を取る、会社へ伝える、でした。

いま振り返ると、抜けていたものがあります。仕事の入り口と、単価と入金日の確認です。もっと早く確かめておくべきでした。ここを飛ばすと、辞めたあとで慌てます。

その分を足して並べ直すと、こうなります。

独立前に確認する5つ|①家計と支払いを出す ②仕事の入り口を決める ③単価を確かめ、金をためる ④資格・保険・道具をそろえる ⑤会社へ伝え、引き継ぐ

1. 家計と、辞めたあとに出ていく金を出す

いちばん先にやったのは、毎月いくら入って、いくら出ているかを全部出すことです。

これをやらないと、次の「いくら貯めるか」が決められません。必要な額が分からないまま貯めても、いつまで貯めればいいのか分からないままになります。

見るのは家賃や食費だけではありません。辞めたあとには、こういう金が来ます。

  • 住民税
  • 健康保険
  • 国民年金
  • 車の維持費や支払い
  • 道具の買い替え
  • 一人親方労災の保険料

口座に残っていても、払うことが決まっている金は、生活費には使えません。そこを分けて数えておきます。

出してみると、なくても困らない支出もいくつか出てきました。減らせるものは、辞める前に減らしました。

2. 進む方向と、仕事の入り口を決める

これは時間がかかりました。

何をやりたいのか。どこへ行きたいのか。辞めることそのものが目的になっていないか。

やっておいてよかったことを1つ挙げるなら、これです。方向が決まっていれば、次に取る資格も、断る仕事も決まります。決まっていないと、来た話に流されます。

念のために書いておくと、独立を勧めているわけではありません。向き合った結果、いまの会社で続けるという結論もあります。それも決めたことのうちです。

そのうえで、独立するなら、もっと手前の話を決めておきます。

  • どんな仕事を請けるか
  • 誰から仕事をもらうか
  • 常用でいくのか、請負でいくのか
  • 一人でやるか、人を使うか
  • 仕事がない月をどうするか

辞めてから考えることではありません。とくに「誰から」がぼんやりしたまま辞めると、来た話を選べなくなります。

ひとつ注意があります。「常用」「請負」と呼べば、そのとおりに決まるわけではありません。誰が仕事のやり方を決めるか、仕事を断れるか、道具を誰が用意するか。そうした実際の働き方で見られます。くわしくは再下請負通知書の記事にまとめました。

3. 単価と入金日を確かめ、必要な金をためる

いくら貯めるかは、入ってくる金がいつ入るかで変わります。

一人親方は、収入が毎月同じではありません。現場が途切れることもあります。そして、仕事をした月に金が入るとは限りません

人工が2万円でも、入金が2か月後なら、その2か月は自分の金で回すことになります。単価だけ見て決めると、ここで詰まります。

確かめておくのは、この2つです。

  • 人工や請負の単価はいくらか
  • 締めがいつで、支払いが何日後か

そのうえで、収入が止まっても暮らしが続く分を、先にためておきます。ここが薄いと、条件の悪い仕事でも受けざるを得なくなります。

4. 資格・保険・道具をそろえる

方向が決まってから、そこに要るものを取りにいきました。

在職中に資格を取るのには理由があります。収入がある状態で取れるからです。辞めたあとでは、収入の見通しが立たないなかで、受講料と勉強時間をひねり出すことになります。

そしてもう一つ、あとで分かったことがあります。在職中や辞めた前後に受けた訓練が、雇用保険の扱いを変えることがあるのです。これは後半で書きます。

資格のほかに、そろえておくものがあります。

  • 一人親方労災への特別加入
  • 道具と車
  • 見積書と請求書の形

労災は、忘れると現場でいちばん困ります。本当に一人親方として働くなら、会社員として入っていた労災保険の対象ではなくなります。

そして、一人親方労災は自動では付きません。特別加入団体を通して手続きします。申し込んだその日から補償されるわけではありません。補償が始まる日を団体に確認してから現場へ入ってください。

なお、名目が一人親方でも、実際は雇われて働く形なら扱いが変わります。保険まわりの順番は保険・年金の記事にまとめました。

退職にともなう健康保険・年金・雇用保険の手続きは、次の節にまとめます。

5. 会社へ伝え、現場を引き継ぐ

伝えたのは、辞める2〜3か月前です。

早すぎると気まずい期間が長くなります。遅すぎると迷惑がかかります。現場の区切りと、人の手配にかかる時間を考えると、このあたりでした。就業規則に予告の期間が書かれていることもあります。

辞め方は単純です。

  • 受けた現場は、終わらせてから辞める
  • 終わらないものは、引き継いでから辞める
  • 辞めたあとに迷惑がかからない形にしてから出る

きれいごとに見えるかもしれませんが、同じ業界で続けるなら実利の話でもあります。

抜け方が悪ければ、その現場に残った人たちが困ります。困らせた相手には、あとで応援を頼めません

辞める前に、書類と切替も確認する

退職日が決まったら、会社からもらうものと、自分でやる手続きを先に確認します。

会社からもらうもの。

  • 離職票は、いつ受け取れるか
  • 源泉徴収票は、どこへ送られるか
  • 健康保険をやめたことが分かる書類は、出してもらえるか

自分でやる手続き。

  • 退職後の健康保険を、任意継続・国民健康保険・家族の扶養のどれにするか
  • 厚生年金から国民年金への切替

健康保険と年金の切替には、短い期限があります。

  • 国民健康保険と国民年金は、原則14日以内
  • 会社の健康保険を続ける「任意継続」は、原則として資格を失った日から20日以内(健康保険法第37条1項)

辞めてから考え始めると、あっという間に過ぎます。

任意継続を選べるのは、退職日までに会社の健康保険へ続けて2か月以上入っていた人です(健康保険法第3条4項)。家族の健康保険に入る場合も、扶養の条件を満たす必要があります。

任意継続と国民健康保険では、保険料が違います。どちらが安いかは人によって変わるので、在職中に両方の金額を調べておくと動きやすくなります。

雇用保険は、辞める前に確認する

いちばん先に調べておけばよかったのが、ここでした。

知らないまま辞めると、受け取り始める時期や、使える手続きを逃すことがあります。

辞めたあとの進み方は、2つあります

まず、ここを分けておきます。

失業手当は、会社を辞めた人なら誰でも受け取れるものではありません。もう一度どこかで働くつもりで、実際に仕事を探している人のための制度です。

法律には、こう書かれています。

この法律において「失業」とは、被保険者が離職し、労働の意思及び能力を有するにもかかわらず、職業に就くことができない状態にあることをいう。(雇用保険法第4条3項)

働く気も力もあるのに、仕事に就けていない状態のことです。この失業手当を、制度上は「基本手当」といいます。

だから、辞めたあとの進み方で分かれます。

もう一度どこかで働くつもりがある人……ハローワークで仕事を探します。条件を満たせば、基本手当を受け取れます。

独立の準備に専念する人……基本手当は、原則として受け取れません。その代わり、受け取れる期限を残す手続きがあります。

「独立の準備に専念する」というのは、たとえば事務所を借りる、道具をそろえる、仕事を取りに動く、といったことに専念し始めることです。

実際の扱いは、開業届を出したかどうかだけでは決まりません。仕事や準備の状況を見て判断されます。自分の場合がどちらになるかは、始める前にハローワークへ確認してください

もう一度働く人は、まず期間の条件

基本手当を受け取るには、働いていた期間の条件があります。

辞めた日より前の2年間に、雇用保険に入っていた月が通算12か月以上あることです(雇用保険法第13条1項)。

倒産や解雇で辞めた人、契約が更新されなかった人などは、辞めた日より前の1年間に6か月以上でも対象になることがあります(同条2項)。

独立に進む人は、別の手続き

こちらは、独立する人のための話です。

もし商売をやめて、もう一度仕事を探すことになったときのために、失業手当を受け取れる期限を残しておく手続きがあります。制度上は「受給期間の特例」といいます。

失業手当を受け取れる期限は、原則として辞めた日の翌日から1年です。1年を過ぎると、日数が残っていても受け取れません。

この手続きをすると、商売をしている期間を最大3年間、その1年に数えないでおけます(雇用保険法第20条の2)。

独立している間に失業手当が出る制度ではありません。商売をやめたあとのための備えです。

対象になるのは、次の5つをすべて満たす場合です。

  1. 商売をしている期間が30日以上であること
  2. 始めた日から30日たつ日が、受け取れる期限の中に入っていること
  3. その商売について、就業手当や再就職手当をもらっていないこと
  4. その仕事で独立してやっていく商売だと確認できること。開業届の写しや許可証など、実際に始めたことが分かる書類を出します
  5. 辞めた日の翌日以降に始めた商売であること。辞める前から始めていた場合も、辞めたあとにその商売へ専念し始めたときは含まれます

そして、期限があります。

商売を始めた日、商売に専念し始めた日、その準備に専念し始めた日の翌日から2か月以内

申請は、原則2か月以内です。例外もありますが、最初から当てにしないでください。開業でばたばたしているうちに過ぎます。独立を考えている人は、給付制限より先に、ここを確認してください。

自己都合なら、最初の7日+原則1か月

ここからは、もう一度どこかで働くつもりの人の話です。

ハローワークで仕事を探す申し込みをして、受け取る資格が決まっても、すぐには出ません。

  1. 最初の7日間は出ません
  2. そのあとも、自己都合なら原則1か月は出ません
  3. それを過ぎてから、失業手当の対象になります

自己都合で辞めたあと、基本手当までの順番|求職申込み→待期7日→給付制限 原則1か月→基本手当。対象の教育訓練を受けて自分で申し出た場合、外れるのは給付制限。7日の待期は残る

最初の7日を「待期」、次の1か月を「給付制限」といいます(雇用保険法第21条・第33条1項)。

待期の7日は、辞めた日からではありません。ハローワークで求職を申し込み、受け取る資格が決まった日から、失業している日を数えます。基本手当の手続きをする人には、辞めた理由にかかわらず7日の待期があります。

1か月の給付制限は、令和7年4月1日以降に辞めた場合の扱いです。それより前に辞めた人は、原則2か月でした。

※5年のうちに2回以上、自分の都合で辞めている場合は3か月になることがあります。重い理由で解雇された場合も扱いが違います。

対象の訓練を受けていると、この給付制限がなくなることがある

決められた訓練を受けていると、給付制限が解除されます。令和7年4月から始まった扱いです。

外れ方は、受けた時期で変わります。

  • 辞める前の1年以内に受けて修了した人……待期の7日が終わったあとから外れます
  • 辞めたあとに受け始めた人……原則として、受講を始めた日から先が対象です

つまり、辞めたあとに始めた場合は、さかのぼって全部が消えるわけではありません

対象になるのは、次の4つのいずれかです。

  1. 教育訓練給付金の対象となる教育訓練
  2. 公共職業訓練等
  3. 短期訓練受講費の対象となる教育訓練
  4. 1から3に準ずるものとして職業安定局長が定める訓練

いずれも、令和7年4月1日以降に受け始めたものに限られます。辞める前に受けた分は、途中でやめた場合は当てはまりません。

ただし、講座を受ければ何でもいいわけではありません

「資格を取れば給付制限が外れる」ではありません。

上の1から4のどれかに当てはまる訓練かどうかで決まります。本を買って独学した、民間の講座を受けた、というだけでは対象にならないことがあります。

そして、自分から申し出る必要があります。黙っていて自動で外れるものではありません。申し出の期限は受け始めた時期で変わるので、受講を始めたら、すぐハローワークへ。期限を過ぎると、受講開始日までさかのぼって出ない期間が残ることがあります。

7日の待期は、訓練を受けても残ります。外れるのは、そのあとの給付制限です。

なお、重い理由で解雇された場合は、この教育訓練による解除の対象になりません。

ハローワークでは、この3つを聞く

「確認してください」だけだと、何を聞けばいいか分かりません。そのまま使える聞き方を置いておきます。

  • 「会社を辞めて一人親方になる予定です。いつから独立の準備に入った扱いになりますか
  • 「この講座を受けると、給付制限は外れますか
  • 「基本手当ではなく、受け取れる期限を残す手続きの対象になりますか」

難しい言葉を、ひとことで

  • 待期……ハローワークで受け取る資格が決まったあと、失業している日が通算7日になるまで出ない期間
  • 給付制限……自分の都合で辞めた人が、待期のあとさらに待つ期間
  • 受給期間……失業手当を受け取れる期限。原則、辞めた日の翌日から1年
  • 受給期間の特例……商売をしている間、その期限を止めておける手続き

よくある質問

Q. 辞めてから準備すればいいのでは。

A. できないことはありません。ただ、家計の見直しも資格の取得も、収入がある間のほうが進みます。辞めたあとでは、見通しが立たないなかで受講料と時間をひねり出すことになります。

Q. 2〜3か月前に伝えるのは早すぎませんか。

A. 現場の区切りと、代わりの人の手配にかかる時間を考えると、このくらいでした。会社や現場によって変わります。就業規則に予告の期間が書かれていることもあるので、先に確認してください。

Q. 開業届を出すと、失業手当はどうなりますか。

A. 届出を出した日だけで決まるものではありません。商売を始めているか、準備に専念しているか、仕事を探しているか。そうした状況をハローワークが個別に見ます。ここは自己判断でいちばん間違えやすいところです。

Q. 会社を辞める前に、どこへ相談すればいいですか。

A. 制度ごとに窓口が違います。雇用保険はハローワーク、開業や税金は税務署です。健康保険と年金は、国民健康保険と国民年金は市区町村、任意継続は退職前に入っていた健康保険、家族の扶養は家族の勤め先へ確認してください。辞める前に一度ハローワークで話を聞いておくと、順番が見えます。

まとめ

  • 辞めると決めた日から辞める日までは、独立の準備に使える期間です
  • 確認するのは、家計と支払い → 仕事の入り口 → 単価と入金日 → 資格・保険・道具 → 会社へ伝えて引き継ぐの5つです
  • 退職後の住民税・健康保険・年金と、会社からもらう書類も在職中に確認します。切替には期限があります(国民健康保険と国民年金は原則14日以内、任意継続は原則20日以内)
  • 失業手当は、もう一度どこかで働くつもりで仕事を探している人の制度です。独立の準備に専念する場合は扱いが変わります
  • 対象の訓練による給付制限の解除と、独立したあとの受給期間の特例は、辞める前にハローワークで確認してください

辞めるかどうかは、その人が決めることです。ただ、決めたあとの数か月をどう使うかで、独立してからの立ち上がりが変わります。

独立したあとの書類や事務でつまずきそうなところは、トランジットでお手伝いできます。失業手当や開業の判断は、ハローワークや税務署など、それぞれの窓口へご確認をお願いします。

(2026年8月時点の情報です。制度は改正されることがあります。ご自身が受け取れるかどうか、いつから受け取れるかは、必ずハローワークでご確認ください)

(出典:雇用保険法(第4条・第13条・第20条の2・第21条・第33条)健康保険法(第3条・第37条)労働者災害補償保険法(第33条・第35条)厚生労働省「国民健康保険の加入・脱退について」厚生労働省「令和7年4月以降に教育訓練等を受ける場合、給付制限が解除され、基本手当を受給できます」同リーフレット(PDF)厚生労働省「離職後に事業を開始等した場合の雇用保険受給期間の特例」同リーフレット(PDF)

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